採用活動
出演者
日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務 人事本部長
クリスチャン バリオス (BARRIOS, Christian) 氏
HRエグゼクティブコンソーシアム 代表
楠田 祐 氏
NECなど東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後に1998年よりベンチャー企業社長を10年経験。会長を経験後2010年より中央大学ビジネススクール客員教授(MBA)を7年間経験。2009年より年間500社の人事部門を6年連続訪問。2015年は日テレのNEWSZEROのコメンテーターを担当。2016年より人事向けラジオ番組「楠田祐の人事放送局」のパーソナリティを毎週担当。2017年より現職。専門は人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で非常勤役員や顧問なども担う。シンガーソングライターとしても本業として活躍。
株式会社ワークス・ジャパン
成瀬 仁美
2010年株式会社ワークス・ジャパン入社。企業の新卒採用支援の一環として、主に採用プロモーション/選考管理システムの営業・企画を担当。入社時から営業職に従事。
マイクロソフトが築きあげた
グロースマインドセットのカルチャー
- 楠田
- コロナ禍のもと、今、日本マイクロソフトの社員の方々は文字コミュニケーションと口頭コミュニケーション、どういう比率になっていますか?
- バリオス
- 文字コミュニケーションが8割ぐらいですね。ただ、文字コミュニケーションだけでは限界があり、きめ細かい課題や 問題をキャッチアップ しにくいというリスクがあるととらえています。
- 楠田
- なるほど。伝えたいことを一方的に伝えるなら文字でもいいかもしれない。しかし口頭で言ったほうが、きちっと理解できることもある。
- バリオス
- そうですね。ほとんどの社員が在宅勤務となり、face to faceの1 on 1コミュニケーションができないことを考えると、やはり違うかたちでそれに代わるコミュニケーションが必要となります。文字やチャットだけではなくTeamsミーティングで顔を合わせたり電話で話したり、場合によっては会って話す。そこは非常に重要になっています。
- 楠田
- コロナ禍に入って、文字だけではまずいと思った社員も多いのでしょうね。
- バリオス
-
はい。やはり1 on 1のコミュニケーションやフォーマルとインフォーマルのコミュニケーションの工夫が必要になっています。
- 楠田
- なるほど。そこでお聞きしたいのが日本マイクロソフトのカルチャーです。いったいどのようなカルチャーなのでしょう?
- バリオス
- 端的に言えば、グロースマインドセットのカルチャーです。学び続ける、チャレンジし続ける、常に成長し続ける。CEOのサティア・ナデラが就任と同時に、グロースマインドセットをカルチャーチェンジのテーマに掲げ、推進してきました。
- 楠田
- そうすると、リーダーは部下に対して、1 on 1で成長をサポートする?
- バリオス
- そうですね。部下の成長をサポートする。それを通して組織の成長、会社の成長をサポートする、というかたちです。
- 楠田
- Teamsなどのツール、テクノロジーも使いながら?
- バリオス
- はい。
- 楠田
- 家で生活しながら仕事をして、オフィシャルにはマネージャーやリーダーとミーティングしながら、部下の成長もしていくって一体感がありますね。
- バリオス
- そうですね。この一体感は自然に生まれるものではなくて、やっぱり意図 して作っていかなければなりません。それが先ほど申し上げたインフォーマルなコミュニケーションとフォーマルなコミュニケーションとチャット、その組み合わせでできあがるものと考えています。マイクロソフトでは1 on 1を継続的に行うことなどを、マネジメントシステムの中に組み込んでいます。
- 楠田
- コロナになってから1 on 1を始めた企業が多いんですよ。しかし、日系企業に多いのですが、やればやるほど部下に対してワンウェイになってく。「今月予算いくの?」とか。
- バリオス
- う~ん、それは1 on 1と呼べないですね。
- 楠田
- ワンウェイ。一方通行です(笑)。テクノロジーは間違えると管理監視のツールになってしまいます。「何時にパソコン立ち上げたよね」とか。テクノロジーは管理監視に使うのではなく、グロースマインドセット、自律を促進するために使うところにマイクロソフトの特長があるように思います。
- バリオス
-
マイクロソフトには【Leadership Principles】というリーダーシップの指針が、3つあります。
ひとつは明確に課題を意識する【 Create Clarity】。もうひとつが【Generate Energy】、すなわちエネルギーを、ポジティブなエネルギーを生み出す力。そして3つ目が成功をもたらす、結果を生み出す【Deliver Success】です。
クリアに課題意識をして、エネルギーを創り出し、最終的に成功に導くという繰り返しで、グロースマインドセットを支え、孤独感を避けることができます。その好循環をつくることが企業の責務だと私は考えています。
- 楠田
- なるほど。ではそういうカルチャーのマイクロソフトが求める人材像とは?
- バリオス
- 学び続ける力、ラーニングアジリティ力を持つ人材ですね。常に新しいチャレンジを求めて、アップスキルをしていく人。ただし、これまでそうした体験をしたことがなくても、グロースマインドセットの考え方でできるようになるというのが、マイクロソフトのフィロソフィーです。
- バリオス
-
マイクロソフトではパーパスをミッションと呼んでいます。
“Empower every person and every organization on the planet to achieve more ”、地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする、というものですが、その中で、社員一人一人のエンパワーメント、キャリアデベロップメントも、そこに結びつけることが大きなポイントだと思っています。グロースマインドセットが稼働し始めると、ポジティブなエネルギーが生まれ、いろいろなクリエイティビティが発揮されます。それがポジティブな循環にはつながっていくと思っています。
不透明な時代だからこそ変化に順応できる人材の育成を
- 楠田
- 近年、コロナ禍で大学が授業もゼミもオンラインになってしまい、学生が大人と話す機会が少なくなりました。
- バリオス
- コロナ以前とは、だいぶ大きく変わりましたね。しかし学生も時代に順応して、コロナ以前とは違うチャンネルでのつながりを持つようになっていると思います。
- 楠田
- オンラインネイティブですね。
- バリオス
- オンラインコミュニケーションにはポジティブとネガティブの両面があります。私は、ちょうどコロナになったときの新卒の、教育・研修の部門にいたのですが、コロナ前と完全オンラインになってからの新入社員からの質問の数を比較すると、意外にも後者の方が質問数が多いのです。
- 楠田
- 周囲の人の顔色を見ながら手を挙げなくていいので質問しやすいのかもしれませんね。質問の数だけでなく、質も上がっているかもしれません。
- バリオス
- 質問数が多くなると、他のメンバーにも伝わり、学びの機会が増えていきます。
- 楠田
- コロナの時代では、そうしたことが当たり前なんですね。そうした中では学生が企業のカルチャーにフィットするかどうかを見きわめることが大切 になります。一方で、企業もまた時代に応じたカルチャーへと変わらなくてはいけません。
- バリオス
- その通りだと思います。
- 楠田
- カルチャートランスフォーメーションは、トップのコミットメントが必要だと思いますが、マイクロソフトではどのように進められたのでしょうか。
- バリオス
-
本当の意味でのカルチャーチェンジは、ご指摘通り、トップのコミットメントから始まります。マイクロソフトは、8年前にサティア・ナデラがCEOに就任してから、カルチャーを変えるという強い志、コミットメントのもとで動いてきました。もし企業のトップがカルチャーチェンジの重要性を理解できない場合は、人事の皆さんがトップを説得しなければいけません。 「説得しない」という選択肢はもう、もはやないと思っています。
- 楠田
- 日本企業の人事担当役員に聞くと、毎月ダイアログやっているとか、毎週1 on 1やっているとか社長との対話を結構やっている人もいるんですよ。一方で、社長から呼ばれないと行かない人もいる。 自分からソリューションを提案できない人事担当者って、まずいのかもしれない と、今の話を聞いて思いました。
- バリオス
- そうですね。今後のビジネスを支えるための人材という観点から、人事担当者は人材育成プランや会社のトランスフォーメーションプランを考えるピープルアジェンダーを持つべきです。
- 楠田
- 昨年の6月11日に、東京証券取引所のコーポレートガバナンスコードが改定され、人的資本に関する情報開示という項目が追加されました。プライム市場上場企業においては、女性の管理職をどう増やしていくかといったことを開示しないといけない時代になっていきます。そうなったときに、やはり人事のヘッドというものが、社長とコミュニケーションを取っていないと、まずい状態になります。
- バリオス
- そうですね。あり得ない状態ですね
- 楠田
- バリオスさんからするとあり得ない。でもそんな会社、あるんですよ(笑)。
- バリオス
- あり得ないです。マイクロソフトでは、私と社長は毎週、ミーティングを行います。人事の部下とも毎週1 on 1を欠かしません。
- 楠田
- 部下の成長のために?
- バリオス
- 部下の成長のためだけではなく、部下をサポートするため でもあります。また、人に興味を持つ、興味があるということを示すため でもあると思うんですね。1 on 1はオペレーションや仕事のチェックのものではなく、もっと奥深いもの。カルチャーを変えるためのすごく重要なツールの一つであると思っています。
- 楠田
- なるほど。
- バリオス
- 私自身の1 on 1も、進化しています。学習しますし、あと、部下も進化していくんですね。
- 楠田
- 部下も進化しているから、変な対応ができない。
- バリオス
- そのとおりです。ですから、互いに成長し、学び続ける。
- 楠田
- まさにラーニングアジリティですね。では、これからそうしたコミュニケーションのなかで、どのような人材を採用し、育成していくべきでしょう?
- バリオス
- 今はコロナですけれども、次の危機がどういうかたちで訪れるかは、正直言って見えていません。そうした中で、企業はチェンジレディ、変化に順応できる人材を作り上げる責務があると考えています。
- 楠田
- 未来は不透明。だからチェンジレディ、即危機対応できる人材を企業も学校も育てていかなくてはいけないわけですね。
- バリオス
- そうです。順応できる力が必要になってくる。
- 楠田
- どんな危機の中でも企業はグローバルにビジネスを展開して成長してければならないし、HRは社員やリーダーにポジティブに活動してもらわなきゃいけない。だからこそ、グロースマインドセットで、一人一人の成長も寄り添っていくっていう時代になるということですね。
- バリオス
- その通りだと思います。
大学のキャリアセンターもジョブ型への変革を
- 楠田
- ここからは、企業の採用に関する変化について話したいと思います。ひとつはオンラインだと人を見抜けないのではないかという疑問。次に面接では現場の人が自分と同じ傾向の人を選びがちで、ダイバーシティと逆の方向へいくのではないかという懸念。この2点について意見を伺いたい。
- バリオス
-
オンライン環境における面接の仕方も、ケイパビリティアップなど、いろんな研修があると思います。そこをきちんと現場の方々にも普及させなければいけません。
またダイバーシティに関しては、 バックグラウンドや男女の比率などを人事で示し、きちんと現場の方々とディスカッションする必要 があります。そうすれば、アカウンタビリティをドライブすることもできますし、ダイバーシティに富んだ人材の獲得にもつながると思います。
- 楠田
- コロナ禍、少子化ということもあり、企業の採用担当者は優秀な学生に早く内定出したい。学生ももちろん早く内定がほしい。ところが人間って早く内定をもらうと、「本当にここでよかったのか」と悩み出したりします。そういう人に対してはどうしたらいいのでしょう。
- バリオス
- 就職活動は自分のやりたいこと、次のライフステージで目指したいことを考えるところからスタートする と思います。あとはもう、先輩などのネットワークを駆使して、いろんな人と話をして情報収集する。そして最終的に自分で決断する。そのプロセスが重要なのだと思います。
- 楠田
- そうすると、大学のキャリアセンターの役割も重要ですね。
- バリオス
- 大学のキャリアセンターのヘルプも必要になってくると思います。 でも、実を言うと、マイクロソフトには大学のキャリアセンター経由で応募する学生はほとんどいないんですよ。
- 楠田
- おぉ! 自分で!
- バリオス
- はい。なぜかというと、今の学生は、一流企業かどうかではなく、たとえばディベロッパーになりたい、エンジニアになりたい、営業になりたいと就職をジョブ型で考えているんです。だから、大学のキャリアセンターもジョブ型のアドバイスや情報提供を行うようチェンジする必要があると感じています。
- 楠田
- エントリーシートの準備や面接対応は1、2年生のうちにやって、あとは学生と1 on 1を実施するぐらいに差別化しないといけない時代なのかもしれませんね。なるほど、ありがとうございました。
- 成瀬
- お二方ともありがとうございました。最後に、視聴者の皆様へのメッセージいただければと思います。バリオス様、お願いします。
- バリオス
- 人事の皆さん、大学のキャリアセンターの皆さん、私たちは、この変わっていく世界を支える役割を担っています。2030年の日本、2040年の日本を考えながら、ご自分の仕事、自分の役割をぜひ一緒に考えていきましょう。本日は本当にありがとうございました。
- 成瀬
- バリオス様、メッセージありがとうございました。楠田先生、最後、締めのお言葉をお願いいたします。
- 楠田
- 人類の歴史は、紀元前からパンデミックと戦争の繰り返しで進化してきました。つまり私たちは、戦争とパンデミックの生き残りです。私たちがここで生き残り、次の世代の人たちにバトンタッチしていくために何をしなくてはいけないか。それをこのパンデミックの間に考える必要性があると思っています。ラーニングアジリティ力を高めて、こうしたセミナーからヒントを得て、「自分の会社どうしよう」「自分のキャリアセンターどうしよう」と考えた者だけが、生き残ってくのだと思います。今日は本当にありがとうございました。
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2002年デル株式会社に人事マネージャーとして入社、北アジア担当採用ディレクター、アジア太平洋及び日本法人営業部門担当人事本部長、北アジア地域人事本部長を経て、13年シスコシステムズ合同会社に入社。
インドおよび南アジア地域人事本部長を担当後、18年より日本アイ・ビー・エム株式会社常務執行役員 人事担当を務めたのち、21年6月より現職。